【山口県日本海沿岸部〜島根県・鳥取県沿岸部】ニギスは地味だがとても美味

島根県だけでなく、およそ全国の日本海側では秋〜春先にかけて大量にスーパーに並ぶ雑魚がいます。恐らく現地でも全く重要視されていないもので、食べ物の中でもかなり安価な部類に入ると思います。


それがこれ…ニギス

島根県浜田市ではトンコロイワシと呼ばれますが、山口県の日本海側〜山陰内でも呼び名は様々です。


オキギス(沖鱚)やオキイワシ(沖鰯)など、たくさんの名前を持つ魚ですが、どれもこれもあやかり名であやかっている魚種もイワシやキスなどと全く絢爛ではないものばかり。


ものすごいモブ感。


そんな日陰者のトンコロきゅんですが、これは日本海側で食すべき超絶美味しい魚の一つ。一尾10円から、高くても50円を越えないものですが、その味と個性は高級魚種に負けないくらいです。



となると、こりゃあ持ち帰って料理しないとね…となりますが、ニギスはまず水揚げされている地域近隣以外で鮮魚として見かけることはまずありません。

理由はその足の早さ。生き腐れと言われているサバと同じかそれより早い気がしますが、原因は身に含む大量の脂と水分


また、ニギスの美味しいところは、身そのものも然ることながら、内臓や白子・真子も含めて美味なのです。ニギスを食べるなら、内臓も残さず食べたいところ。


普通に保冷バッグなどでテキトーに持ち帰ろうものなら、家に着いた頃には全体的に酸化・腐敗し、なんか食べられるか微妙な空気が漂っていることでしょう。それくらいシビアです。


そんなにシビアなのに、日本海側では破格の安価でありそれ以外の地域にはほぼ全く知名度がない…いわゆる商売にならない魚なので、鮮魚として流通させるコストを考えるとなかなかご当地から出ていけない。そんなこんなで、鮮魚としてのニギスの美味しさは生産地の人の中だけでおこだわりグルメとなっており、とても卑怯だと思います\(^o^)/


そのおこだわり、俺にもくれよ!!


ワタクシたち観光者が、本当のニギスの味わいを知るためにできる輸送方法…それはやはり、真空パックです。


身の中に大量の脂と水を含むニギスは、買った直後にキッチンペーパーごと袋に入れて脱気しておき、迅速にクーラーボックスに入れて密閉します。こうすることで酸化を防ぎ、内臓をも含めた腐敗をかなり遅らせることができるようになります。


ここまで対策して持ち帰れたら、あとは美味しくいただくだけです\(^o^)/




ニギスの加熱調理は煮・焼き・揚げどれでも美味しいですが、加熱調理するにもやはり鮮度が重要になります。真空パックして持ち帰ればそれなりに良い状態だと思いますが。


鮮魚としてのニギスは、適当にサッと煮付けるだけでも十分美味しい。


ニギスの煮付け

醤油は、島根県浜田市産のふじもと醤油を使っています。濃い目の甘さが強い醤油ですが、この濃さをも跳ね返し主張するのはニギス独特の香り。とはいえそこまできついものではなくほんのりと添えられている程度で、クセというより個性の一つとして楽しむことができます。



ニギスフライ

フライにする場合は、鱗だけちょちょっと剥がしてそのまま小麦粉・卵・パン粉をつけて揚げるだけです。


しかし、揚げに入ってからがとても難しい。


内臓や白子・真子の、火が通っていつつも熱で固まり切らない絶妙なラインを見極めないといけないので、これはかなりの数を揚げて経験するしかありません。


ちなみに、上掲載写真の撮影場所でもある、浜田市公設仲買市場の上にあるめし処ぐっさんは、加熱調理がとても上手いので、運が良ければ最高のニギスフライを食べられるかもしれません。

ここのニギスフライは、一口ザクッと行くと…中からニギス独特の香りと共に、白身の甘さの影に薬味のような内臓の苦味が混じり、さらに白子のとろりとした食感が楽しめて極上です。


ワタクシもあまり揚げに自信がないので、ついつい早起きしてぐっさんに行ってしまう(笑)



ニギス天

これは逆に、内臓を取って開いたほうが美味しいですね。やはり独特のニギス味に脂がじゅわっと溶け出す絶品。正直キス天より美味しいと思う\(^o^)/


ちなみに単体の写真がないのですが、焼いても美味しいです。塩焼きにするとニギスの香りがよりダイレクトになり、内臓の味もよりクッキリするので大人向け。


驚くのは、こんなに小さいのにこんなに濃い味が出るところで、ご飯もお酒も共にすると食べ過ぎ飲み過ぎに要注意。





とまぁ、ここまでは通常の食し方です。加熱処理でも、鮮度や調理方法にまぁまぁナーバスなのですが、きちんと作ると本当に美味しいし、方法自体は手軽です。


ちなみに、底引き網漁で穫れる魚なので生食はできない、と市場でも念を押されると思います。実際に生で食べる地域はほとんどないと思いますし、地元の人もまぁやらないと思いますが…


ニギス生食大全(自己責任)

やってみると案外キレイで映える刺し身になりますね(笑)


サヨリに似た身質ですが味は全くの別物で、見た目に反しとろけるような脂がとてもジューシー。サヨリよりもモチモチ感が強く、そこに大量のニギス脂が身に回っているので、あっさりしつつも食べ応えがすごい。


酢締めにすると、この脂が調和されかなりあっさりしたものになりますが、それでもニギス独特の香りは健在。


酢締めに使う酢は、これまた島根県浜田市産のゴールドヤマキン酢を用います。


水抜きする塩は、6枚の半身に対し裏表約2.5つまみ分を振って10分水を抜きます。

酢で締める時間は1分2秒(今回は)。

表面の脂が白くなり表面が若干テカリを帯び始めたら即刻引き上げます。でないと単なるヤマキン酢味の白身になってしまうので、ここは慎重に経過を観察していきましょう。


これを、100均の押し寿司キットに酢飯とぶち込んで形成するだけ。

至福です!!!


これだけ美味しい魚なのに、一尾10円〜で高くても50円までで小売されているんです!とてももったいない!むしろ、この旨さが知れ渡る前のチャンスタイム中に、安価に買ってたらふく食べるのがオススメです\(^o^)/






標準和名ですらあやかり名で、生産地でも存在感の薄いトンコロイワシことニギス。しかしその食味は超美味で、とても数十円程度で売っている雑魚には思えない美味しさを持っています。


鮮度にナーバスな魚の割には値段がつかないので、これからもご当地から出ていくことはないでしょう。華やかだから・有名だからと高値で売れている魚の横で、小さくて茶色で地味なモブキャラのニギスですが、鮮魚のニギスは珍しく大変美味。


日本海側に行くことがあるなら、ぜひとも探してほしい食材です。

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