【広島県山県郡(北広島町)〜安芸高田市】謎の食材”コジョウカラ”

内陸山間部の食事文化はどの地域でも珍しいものが多く感じます。


ワタクシが知っているものでも、内陸部にある京都府は保存用に加工された魚介を高級で美味しいものに変化させる文化が残っており、グジ(アマダイの塩〆)や焼鯖など、保存食とは思えないほど絢爛なものに変わります。若狭街道の通過点である滋賀県でも、淡水魚食文化と共に保存用に加工されたサバを食べる文化があり、こちらもなかなか異色です。


雪深く、中国地方や関西圏よりもさらに海が遠くなる長野県近隣や北関東では、昆虫食の文化も残っています。有名なのは長野県のザザムシですが、スバルで有名な群馬県太田市の駅前のコンビニでは普通にイナゴの佃煮が購入できるくらいに浸透している様子。


どの地域でも、山間部での動物性タンパク質の確保はかなり重要視されていたのだと思います。特に冬場になると、海側より山間部では、一部の恒温動物を除き手軽に採取できる生き物がかなり減ります。すぐに捕まえて食べられそうな昆虫や爬虫類もおらず、獣も冬眠するものが多いです。


そのため、日本全国の山間部では細々と変わった食文化が受け継がれていますが…それは中国山陰地方にある中国山地でも同様のようです。


中国地方は、他地域よりも日本海と瀬戸内海の間が近距離ではあり、その分山間部に海の幸がそこそこ容易に届けられる地域だったようです。海の魚の方言であるマンサク(シイラ)やワニ(サメ)などは中国山地でも古くから食べられてきた魚のようです。


今回は、そういう有名なやつの影に隠れてほとんど誰にも知られていない、山間部のとある保存食であるコジョウカラのお話。


コジョウカラとは…。

サバの卵の塩漬けのことです。これをこの近辺では鯖子塩辛といい、それが訛ってコジョウカラ(子塩辛)と呼ばれるようになりました。中国山地でも、広島県と島根県の県境にある地域でしか見かけないものです。


そしてこの食材、この高度情報化社会となった現代ですら、どマイナーすぎて情報がほぼ無い。


もちろん調べてみましたが、鯖子塩辛でヒットするまともな情報は…やっぱりこの人、ぼうずコンニャクさんのみ。しかし、さすがのぼうずコンニャクさんのサイトでも概要しか書かれていません。


また、2010年に投稿された教えてgooの質問板がヒットしますが、唯一食べている情報はこの質問のみです。この投稿者は、コジョウカラを酒の肴?としつつもご飯の上に乗せて食べていることが伺えます。たらこみたいなものなのでしょうか。


たらこや辛子明太子と同じようなものなら、炙って食ったらさぞかし旨いに違いない\(^o^)/


というわけでやってみました。


コジョウカラの炙り

一口食べると…芳醇すぎるサバ由来の脂がブワッときてこれはおいs


ぬふぅっ!!


…サバの旨味が一瞬口の中に広がったまさにその時、口の中は塩に達した。


塩っぱすぎでしょこれ!


微かにサバの熟成した旨味はあるものの、もうそんなものは彼方に消し飛ぶくらいの純粋な塩の暴力。多分、小さい子が食べたら泣き叫ぶくらいの塩でしょうし、お年寄りが食べたら血圧がどうのの前に、ショックでお迎えに連れて行かれるかもしれないくらい純粋な塩味です。


もうサバの卵ではなく、ほんのりサバ味のついた塩って感じでしょうか。完全に主従が逆転しています。


その威力は湯漬けにしても相変わらずで、単に湯漬けの湯が塩水に変わっただけで弱る気配は全くない。

これはさすがに食べられない…というわけで、コジョウカラはそのままそっ閉じされ冷凍庫二号にしばらく眠っていました。






しかし、せっかくのどマイナー広島おこだわりグルメ。ここは創意工夫で切り抜けねばなりません。


魚卵の塩漬けについて調べてみると…やはり出てくるのはカラスミ。


カラスミはボラの卵で作りますが、実は厳密に魚種が決まっているわけではないようです。


台湾の油魚子(ヨウユーズー)はなんとアブラソコムツの卵を使うというし、イタリアのボッタルガ・ディ・トンノはマグロの卵らしい。他にも、香川県ではサバやサワラの卵で作るカラスミもあるらしく、魚卵であればあまり種類を問わないようです。


まだコジョウカラには可能性がありました。やれることをすべてやり尽くさないなんてバカだ!!


というわけで、コジョウカラを一晩真水につけて塩抜きし、翌日キッチンペーパーを敷いたトレーに入れて水を抜きます。


1日目…ブヨブヨのまま変化なし。


このままでは腐ってしまう気がするので、ラップなしで上にもう一枚キッチンペーパーを引いて、上に重しを乗せて経過を見るも…


3日目…観察に飽きる。


そこからは完全放置で一週間くらい経ってしまい、ふと気づくと…

なんかカラスミっぽくなってた\(^o^)/


慌てて焼酎を表面に塗り、さらに冷蔵庫内で乾燥させます。これを3日。


見た目はカッスカスで、路傍に落ちているかりんとう的な趣を感じますが…

中はジュンジュンのテラッテラだぜ!


これを切りつけて日本酒を用意すると…


コジョウカラスミ(笑)

あのしょっぱいだけのコジョウカラが、もっちりねっとりしつつサバ由来の脂がドオオオオン!本当にカラスミっぽくなりよったわ。


珍味系の味ですが、酒飲みの日本酒党なら絶対にハマる味でしょう\(^o^)/


ただし、今回は初の作成ということで、課題も多く残りました。もう少し塩抜きを長くして、酒を塗りながら乾燥と熟成を促すよう天日干しにすると、より味が良くなると思います。


北広島町のスーパー・サンクスの中に入っている寿司屋さんに、ごくたまに立派なコジョウカラが置いてあるので、興味のある人はぜひどうぞ。あれをカラスミみたいにしたら、相当美味しいと思います。





おそらくは、食料保存に冷却という方法が発見される以前の古い時代の保存食として、ひっそりと中国山地に根付いたであろうコジョウカラ。海辺では鯖子など捨てる部分ですが、魚卵はエネルギーも多く、塩漬けであれば保存も効く上に山間部で不足しがちな塩分も補えるということで、ずっと珍重され続けてきたのでしょう。


今の時代、魚卵はせいぜい辛子明太子とイクラくらいしかメジャーになれない飽食の時代ですが…コジョウカラにはまだまだ可能性がある。そんな気がします。


とりあえず、北広島町近辺で見つけたら…購入したあと適当に塩抜きして、丁寧に干してみてはいかがでしょうか。酒飲みのプロのかたには特にオススメの食べ方ですよ\(^o^)/

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