【鳥取県沿岸部】名物珍魚ババアを食す

秋も深まる頃になると、日本海側では底引き漁が始まり、超名物であるカニが並び始めます。


スーパーでも親ガニ(セコガニ)が生きたまま一枚330円で売られ、冬の日本海沿岸という感じが新年度前くらいまで続きます。

カニは雰囲気アイテムにはいいですが、個人的には歩留まりと味と価格が好きじゃない。しかし、カニ漁はとある激ウマ食材をも連れてくる。


その魚は醜く、およそ旨いと思えない風体ながら…鍋にするとカニ鍋なんか彼方にぶっ飛ばす超絶美味の鍋料理になる恐るべき地魚。


その名はババア。

ここ最近では、漫画”桐谷さん ちょっそれ食うんすか!?”でもゲテモノとして取り上げられ有名になりました。鳥取の隠れ名物として、名前の面白さもあって地味に知名度は高いと思います。


ババアは、正確には鳥取市岩美町での方言の呼び名で、本名をタナカゲンゲといいます。生息域が極めてカニに近い深海域に住むもので、カニ漁の際には本命のカニと混獲される雑魚なので”ゲンゲ=下の下”という名前を与えられた種。


まぁそれでも、漢字は流石に華やかで…後世には玄華・幻華・玄魚などと当てられています。


ちなみに他県ではキツネダラと呼ぶ地域が多く、これも風貌からのようです。


ババアという呼称は、これは口の悪い漁師がいい出したものが定着した説が濃厚です。食の都鳥取県HPでは、


”「ばばちゃん」は、正面から見ると顔の雰囲気がお婆さんの顔によく似ているので、漁師仲間の間でいつしか「ばばちゃん」と呼ばれるようになったと言われています。”


と書かれていますが、ばばちゃんという愛称は鳥取県の水産庁のお役人さんがブランド化する際につけた愛称で、漁師さんが考案したものではないようです。ミスリードはいけません(笑)


実際、市場でもオールドスタイルの呼び名でババアと表記するスーパーや店も多く、知らないと妙齢女性の切り身が売られている!なんて戸惑うこと請け合い。




しかし、一度はまるっと料理してみたい…というわけで、一匹まるまる持って帰りました。

かなり大型なので巻かないとまな板からはみ出る大きさですが、これで一尾1000円程度という低価格\(^o^)/殻だらけで大して食いでもないカニ一枚分で、およそ5尾入手できる計算です。


深海ダラの一種であるババアは、もちろん鱗などなく体表は分厚い皮膚で覆われており包丁が滑りやすいので、気をつけてほしいと思います。よく研いだ刃物でも、当てるだけではツルツル滑って危険が危ない。


ただし、骨は大きさや太さを考えると異様な柔らかさがあり、小出刃で十分解体できます。


これを揚げると…


フライングババア\(^o^)/


正直、捌いている時のヌメヌメツルツルした感触と、若干水っぽい白身では、味は期待できなかったが…


どこから出てきたんだこのプルップルな感触!


加熱で身が引き締まったのか、思ったよりも強い食べごたえがありこれがとても好ましい。


本場では他にも唐揚げで食されるようですが、儚いようで案外と強いこの白身は唐揚げもとても美味しいと思います。


しかし、ババアの本領は…鍋にした時にその実力を露わにします。


鍋野菜とババアを適当に切って土鍋にぶち込み、水と少量の塩のみを入れて煮込みます。決め手としては、アラや中骨も一緒に入れること。切り身も、皮ごとで構いません。これ以外は一切難しいことのない鍋料理です。

鳥取県岩美町の正当なレシピでは、ここに醤油や昆布出汁などを足すそうだが、実力を確かめてみたく本当の水炊きにしてみたところ…


濃ッ!


正直、ババア鍋に無駄な調味料や追加出汁など不要です。競うな 持ち味をイカせッッ


マジでこれ、水炊きが一番美味しいと思います。独特な出汁が鍋を制圧し、木漏れ出る香りは食欲をそそる一級のもの。


そして味は…旨味が水に溶け出してなお炸裂するほどの強さを持つ旨味爆弾。どこにこんな出汁を隠し持っていたのか…今まで食べた全魚介のうち、味の濃さではウチワエビを越えてくるかもしれないくらいのもの。


これに、キュムキュムした身と味の染みた副材…魚の鍋の中でも、かなりの実力を持つ旨さだと思います。





鳥取県にてカニ漁の邪魔者として扱われ、呼び名にすらもその憎悪が現れている深海ダラの一種、タナカゲンゲ/ババア。


しかしこれは、カニに一歩も引かない味わいで歩留まりも高く、何より安いという予期しないダークホースでした。


これはもう食ってみてほしいの一言しかない美味\(^o^)/


むしろ、ババアメインでカニが雑魚でも構わない…そんな美味しさです。

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